2005.5
髪結新三 其の一
平成十二年(2000)十七代目中村勘三郎
十七回忌追善興行で上演された
新勘三郎さん演じる『髪結新三』を見ての感想は
お熊ちゃん、優男の忠七なんてうっちゃって
ワルの新三にノリ換えようよ♪
確か、こんな感じでありました
当時勘九郎の新勘三郎さんは、そう思わせてくれるほど
ワル、と言っても、わりかし爽やかなワルぶりで
男の色気がムンムンの、粋な新三でございました
おそらく、今月歌舞伎座で上演中の『髪結新三』でも
そんな粋な新三の姿がお客さんを魅了しているに違いない
さて、この『髪結新三』
元々は、『梅雨小袖昔八丈』と言う、通し狂言の
全四幕の中から三幕までを上演しているお話
これを、”ええとこどり”の「見取狂言」と言うそうな
ご覧になった方ならわかると思いますが
幕切れは、新三と弥太五郎源七が刀をかざして立ち合うところで”おしまい”
紙芝居で言えば、黄金バット、運命やいかに!
…たとえが古すぎるな(^^;)
なんて場面で幕が降りる
しかも、紙芝居であればその続きを見ることができますが
おそらく通常の『髪結新三』と題された舞台を見ている限り
本来の物語の完結した形を一生知ることはない仕組み
まぁ、歌舞伎ってのはそういう物語が多々ありまして
あの助六ですら、仇である髭の意休の後を追う場面で幕、がほとんど
元々が仇討ちの話なのに、なぜか不完全なまま上演されることが多いんですねぇ
で
この「見取狂言」なんて、あまり聞いたことがないお話が
毎日新聞の「畑律江の舞台はおもしろい」というコラムに掲載されておりまして
それが、前進座南座初春特別公演『梅雨小袖昔八丈・髪結新三』
通し上演の紹介文でありました
で
めったに見られないもんだし、これは見たいもんだな、と、思ったわけ
白子屋の娘、お熊は、手代の忠七と恋仲
しかし、お店の借金のため、意に添わぬ婿養子話が持ち上がる
店先で忠七とお熊の話を盗み聞きした、出入りの髪結である新三は
お熊を連れて逃げなさいよ、おれが手を貸すからよ
なんて、親切ごかしで忠七をそそのかす
ところが、新三はまんまと騙して手に入れたお熊を、拉致監禁強姦の挙げ句に
娘が傷物と知れたらまずいだろう、と、白子屋を恐喝して金をせしめる算段
…こう書くと、粋な江戸っ子どころか、めっちゃひどい奴でっしゃろ?
白子屋の頼みで仲介に入った、古株の侠客、弥太五郎源七を
「おとといきやがれ」と赤っ恥をかかせて追い返し
大家に”しのぎ”をかすめ取られながらも、子分の勝奴と超ごっきげんな新三
しかし、この一件で、すっかり落ちぶれてしまった弥太五郎源七は怨みに思い
ある夜、深川閻魔堂橋で新三を待ち伏せ、立ち会いの末これを殺害
…しちゃうのだ
ここからが、常の上演ではカットされてる部分でございますね
近所で人殺しがあったらしい、と、老夫婦営む居酒屋を訪れた客の話
ぶっそうだからもう店を閉めようか、と、片付けていたところに
古い馴染みの弥太五郎源七が、疲れ切った様子で通りかかる
着物についた血を犬の血だとごまかす源七から
いつもとは違う雰囲気を感じ取った老亭主
勘付かれたと思った源七は、いっそ斬り捨ててしまおうか、と、一瞬の殺意
しかし、そんな源七の気持ちを知ってか知らずか
もう年なんだから、そろそろ足を洗っちゃどうだい、と、亭主は優しく諭す
そうだなぁ、そうしようか、と、それまでの人生を振り返っているのか
どこかさびしげな老侠客の立ち姿
そして、幕
いつものごとく、あらすじにまったく目を通さぬ私としては
この場面、ある意味、手に汗握って見てました
アカンで、アカンで、殺したらアカンで、とね
一人殺すも千人殺すも取られる首はたったひとつ、なんて、有名なせりふもありますが
ちんぴらひとり殺すのと、罪もない老夫婦を殺すのとでは、わけが違う、と、思うのだ
また、そう思わせてくれるほど、源七と老夫婦のやり取りが
なんとも言えず、いい雰囲気でありました
で
この幕を見て、なんだかよくわかんないなぁ、と思っていた
弥太五郎源七という役の持つ意味が、やっと理解できたわけ
新三は、弥太五郎源七の過去の姿
昔は新三のように威勢のいい若者で、侠客として名をはせるのが夢だった男が
いったん名を挙げたとは言え、今は年老いて落ちぶれた己の姿を振り返る
若さへの憧れ、を超えた、妬み、憎しみ、渇望の果ての殺人
この幕がないと、弥太五郎源七は、ただただ新三を引き立てるだけの狂言回し
そう思われても仕方がない役になってますからねぇ
そして、最後は、大岡越前守のお白洲
殺害現場から押収したという簑を前に、しらを切る弥太五郎源七
そこへ、お熊の件で橋から身を投げようとして助けられた
白子屋手代忠七が現れ、犯人はわたしです、と名乗りを上げる
若い忠七の行動に心を打たれた源七は、自らの罪を認めてお白洲を後にする
常とは違うこの幕まで観て、やっとひとつの芝居が終わったな、と言う感じ
降りる幕に、「完」の文字が浮かんで消える
そんな気分でありました
…あれ
お熊の話がおいてけぼりやな
それは、また、次回、と言うことで…
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